ストーリー形式で連載中?です!
思ったとおり、人の洪水。
いつもはとても高級感が感じるシャンゼリゼ通りもお祭りムードに染まって、お高い感じはまったくなくなっていた。歩行者天国になっているものの、もうすぐ、パレードが始まるとのことで整備員の人たちが忙しくロープを張り巡らし、道を作っていた。私は目線の先に凱旋門を見つけ、パリに来た実感をかみ締めていた。気づくと、彼がいない。はぐれたようだ。こんな人ごみ。しょうがないかなと元来、楽天的な私ははぐれたことをちっとも気にとめていなかった。
その時、うでをぐいっと引っ張られた。
「探しちゃったよ。心配したよ。どっかに連れて行かれたかなって思って」
本気で心配していたらしい。汗をかいて、はあはあと肩で息をしている。
しょうがないなんて気にもとめなかったことを申し訳なく思った。
「ごめんなさい。凱旋門にみとれちゃって、ふらふら歩いちゃったんだね。」
と素直に謝った。すると彼は、
「手をつないで歩きませんか?」
といいながら、私の返事も待たずに手を握って歩き始めた。
私はもともと、すごく固い人間で手をつなぐ=彼氏という構図が頭にあるので軽率なことをしてるのではないかと少し考えていた。
だけど、このときの後姿をみて、年下のかわいらしい少年が少したくましく思えた。一人で長く旅してきた私は人に頼るということができず、今まで自分の身は自分で守ると、どこか女らしさが感じられなくなっていたときだったので、男の人に心配されるという感覚が麻痺していたみたいだった。
パレードはきらびやかな衣装をきた人たちが派手なメイクで次々通りすぎていく。パレードをしてる人も観客も一体となってそこにいる人たちみんなが楽しんでいた。海外のこういう雰囲気がすごく好き。その場にいる全員が心のそこからその場を楽しんでいるという感じがすごく伝わってくる。やっぱりきてよかったな。
ユースからバスティーユ広場をぬけ、ぶらぶらと歩く。
さっき会ったばかりの男の人とこうやって並んで歩くということは日本での生活では考えられない。悪い言い方をするとナンパという感じだし、しかもそれに軽くのってしまう私も尻軽女と言われると普段なら思ってしまう。旅行というのは人の心を大胆にしてしまう。旅行先だとお店の中や、街中でも気軽に道を聞いたり、天気の話をしたり。この違いは何だろう?旅行に行く度に思う。
シャンゼリゼ通りまでは地下鉄のほうが近かったのだが、パリの街を歩くというのも気持ちがいいよね?という話になり歩くことになった。
セーヌ川沿いを歩きながら、お互いの話をした。
彼はアメリカの音大に通う学生だった。夏休みを利用してヨーロッパに一人旅にきたのだという。やっぱり・・・年下だと思ったんだよねなどと思いながら彼の話を聞いていた。彼は4歳の頃からバイオリンを弾いていて、今回はウィーンなども周り、イタリア、フィレンツェに住む友人を訪ね、ギリシャのサントリーニ島の山の上にたくさんの白い家があるイアの景色を見に行って最後はアメリカに帰るという旅行計画を私に話してくれた。
実はそのルートは私がもうすでに旅してまわったところばかりだった。私はパリが最終目的地であとは日本に一度帰り、メキシコに行く予定だった。
彼にその土地での旅のアドバイスや列車、フェリーの乗り方など教えてあげているうちにシャンゼリゼ通りについてしまった。
こんなに人と話をしたのは久しぶりだった。しかも、ちっとも飽きない。もともと友達でもない。旅先であったたくさんの人たちの中の一人の日本人。きっともう会うこともないだろうし、なんて思うと何も着飾らず、言葉選びもしないで自然に話しをしていたから楽しかったのだろう。パリの景色もほとんど見ずに人ごみの中に私たちは入っていった。