脱出記~シベリアからインドまで歩いた男たち~
著者:スラヴォミール・ラウィッツ 訳:海津 正彦
1939年、ポーランド陸軍騎兵隊中尉だった著者は、ソ連当局によりスパイ容疑で逮捕される。激しい拷問が続く中、屈指の精神力で乗り越え、いわれのない裁判により25年の強制労働に処せられ、1941年シベリアの北端ヤクツークにある第303収容所に送り込まれる。
家畜車両にギュウギュウに押し込まれ、さらに極寒の地を果てしなく歩く。
そしてついた収容所はそれほど過酷でもなく、ご飯も与えられるし、温かく眠れる。
しかし、このまま朽ち果てたくない!
7人の脱走同士をつどいシベリアに春が訪れた頃、脱走する。シベリアの極寒と戦いながら、バイカル湖沿岸を抜けるまでは寒さとの戦い。モンゴルに入った頃は行く先々で宿や食事のお世話になり優しい人々に触れたのもつかの間、食料も水もなしに果てしなく続くゴビ砂漠に突入する。
飢えと乾き、照りつける太陽に翻弄されながら、一度だけオアシスを見つけるもほぼ飲まず食わず。その間に二人の友が砂漠で命を落とす。
チベットを越え、いよいよ世界最高峰ヒマラヤを越える。今までの辛い経験があればこそ、著者たちはなんとか乗り越える。最後の最後に一人犠牲者が出たものの、四人がかろうじてインドにたどりつき、イギリス兵に保護される。
この一年ほど続いた脱走の旅。彼らほど過酷でもなく、充分な食料と水を持ち歩きつつも、一人で放浪していたときのことを思い出しながら読み進めた。
シベリアのあの寒さはノルウェー最北端の地、ノールドカップにいったときの寒さを。砂漠の暑さはサハラ砂漠を横断したときのことを。ヒマラヤ山脈越えはトレッキングで頂上を目指していたときのことを。
著者の方たちの旅に比べたら私のものなど非ではないが、読んでいるとついつい自分が辛かったな~と思う旅と重ねてしまう。
シベリアからインドまでの6500kmの脱走行。
自分も一緒に歩き、人々の優しさに触れたり、辛くなったりしたような気分にさせられる本だった。
そして、この本を読んでいてさらに感動したのは旅を共にした仲間たちがいたからこそ乗り越えられたという事実。
物静かだがいざというときのご意見番マコウスキー(ポーランド)
さまざまな経験をもつ騎兵隊軍曹パルチョウィッツ(ポーランド)
体は大きく心も広いコレメノス(ラトヴィア)
いつも回りを明るくするユージン・ザロ(ユーゴスラビア)
建築家としての力量を発揮したマルチンコヴァンス(リトアニア)
常に冷静に物事を判断するスミス(アメリカ)
旅の仲間とは何事にも変えられないものがありますね。
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