私のフライトは朝、11時発。
逆算すると朝の7時にはホテルを出てシャルルド・ゴール空港にいかなければいけない。おみやげも買っていないし、荷物もつめていない。帰りの地下鉄の中は終始無言だった。私も何を話していいのかわからず黙っていた。
ユースについたのは夜8時ころ。何もしゃべってくれないのでとりあえず私から切り出した。
「昨日と今日はすごく楽しかったよ。一人だったらもっと適当に過ごしていたかもしれないし、ほんとにありがとうね!」
「うん、僕も楽しかったよ。迷惑じゃなければメールアドレス教えてもらってもいい?」
こうしてアドレスの交換はした。でも、旅先でのメールアドレスの交換は日常茶飯事だし、私もそんなにマメではないので、ここで終わるだろうと思っていた。
部屋に戻り、パッキングをしてベッドに横になったらいつのまにか寝てしまっていた。
目がさめると4時。
もう、これ以上寝たらおきる自信がない。5時には空港行きの始発が出る。空港で寝るのが確実と思い、バス停に向かうことにした。
バックパックを背負い、みんながおきないようにそっとドアを開けた。
お金は前払いなので出るのは自由。フロントを抜けて外に出る。
そこには彼がいた。
「どうしたの?ずっと起きてたの?」
「ううん。ちょっと出かけてきて中に入れなくなって外にいた。いや、本当は見送りしようと思って待ってた。」
「そうか。ありがとう。7時に行くって言ってたでしょ?それまでここにいるつもりだったの?」
「まあね。最後に会いたかったから。」
私はなんと答えていいのかわからなかった。彼を好きという気持ちはない。変に期待させるのもいけないし。何より、日本とアメリカで遠距離なんていうのもとてもできない。
いろいろ試行錯誤して考えていると
「あ、困ってる。別にいいよ。何も言わなくても。メールしてもいい?俺、明日、バルセロナに行く。その後の旅行の日記みたいなの書いて送りたいんだ」
「うん。返信あんまりマメにできないけど、読んだら返事するね。じゃあ、もう行くね。ほんとにいろいろありがとう。」
バス停に向かおうとする私の腕をつかんだ。
「抱きしめてもいい?」
何も答えずにいたらぎゅっと抱きしめられた。すごく強く。
「ごめん。気をつけて帰ってね」
彼のほうが先に立ち去った。
バスに乗って、空港に向かう途中、すごくドキドキした。
急に寂しくなった。私は好きにならないようにしていただけなのかな?
どっかで、旅先での出会いは・・・という感じで付箋をうっていたのかもしれない。年下は頼れないからと突き放していたのかもしれない。そう思うと、会いたくなった。あって、もっとちゃんと話をしたくなった。
でも、もう遅い。日本で祖父が待ってる。帰らなくちゃ。
その後、私たちはアメリカと日本でメールだけのやり取りが続いた。時差があるため、なかなか電話もできない。離れている分、しゃべれない分、メールがどんどん長くなる。気持ちがどんどん大きくなる。
四年後、大学を卒業した彼が日付変更線を超えて、私の前に現れた。
「手をつないで歩きませんか?」